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2011年10月22日~11月1日
「地球規模課題:顧みられない熱帯病対策~特にカラザールの診断体制の確立、
ベクター対策研究~」における現地調査(バングラデシュ)報告書

調査期間:平成23年10月22日~平成23年11月1日
報告者:東京大学大学院・農学生命科学研究科・三條場千寿

日々のベンチワークの中で寄生虫の流行地での経験を欲するようになり、カラ・アザールの対策に携わることを決意しました。
バングラデシュにおけるカラ・アザールの研究拠点の立ち上げから、フィールド調査まで全般に関わります。
バングラデシュの人々と共にカラ・アザールの制圧に向けて精進したいです。
背景:サシチョウバエの種については700種以上報告があり、その中でリーシュマニア症を媒介する、あるいは、媒介するだろうと考えられている種は旧大陸だけで20種以上になる。バングラデシュにおいては、隣国インドで報告されたP.argentipesが媒介種ではないか、と推測されているが、未だ証拠はない。
また、サシチョウバエの生態には不明なことが多いうえ、気候や環境によりその生態は異なることから、今回、我々は初年度のベクター対策研究として以下の調査を行なった。

1) サシチョウバエの生態調査

A) サシチョウバエの分布に関する調査
目的:①Trishal内の4つのPara(Alahori、Magurjora、Kakchar、KaniHari)において カラ・アザール患者の多い地域(Para あるいはHomeレベル)、少ない地域、またいない地域でサシチョウバエの密度を比較検討することにより、サシチョウバエの密度と分布、患者数との相関性を検討する。
②Home内においてのサシチョウバエの分布(屋内、屋外、家畜小屋)を比較検討することによりサシチョウバエの休息場所および産卵場所を予測する。
方法:20個のライトトラップ(光誘引式捕虫器)を目的の場所に日没前にセットし、翌朝トラップを回収し、採集されたサシチョウバエをトラップごとにサンプリングした(写真1、2)。これを各地域で行った。
1.屋内セットのライトトップ 2.屋内セットのライトトップ
1.屋内セットのライトトップ 2.屋内セットのライトトップ
B) サシチョウバエの嗜好性調査
目的:サシチョウバエにはそれぞれ種により嗜好性がある。そこで、バングラデシュにおいてサシチョウバエの嗜好性(牛の血かヤギの血か、あるいは人の血を好むのか)を把握することにより、コントロールの対象となる場所をより正確に選定する。
方法:専用のテント内に対象となる家畜(牛、ヤギ等)をそれぞれ入れ、吸血に集まったサシチョウバエを採集した(写真3、4)。
3.嗜好性調査専用テント 4.テント内の様子
3.嗜好性調査専用テント 4.テント内の様子
C) サシチョウバエの活動時間調査
目的:サシチョウバエが最も活発に行動する時間帯を把握し、流行地住民のライフスタイルと考え合わせることで、より的確なベクターコントロールの方法を模索する。
方法:夕方5時より翌朝9時まで、1時間、あるいは2時間ごとに自動的に採集可能な捕虫器を用いて、どの時間帯に最もサシチョウバエが採集できるか検討を行った(写真5、6)。
5.自動捕虫器 6.カラ・アザール患者の家内設置、捕虫器
5.自動捕虫器 6.カラ・アザール患者の家内設置、捕虫器
D) サシチョウバエの行動調査
目的:サシチョウバエの屋内への侵入経路を把握することにより、屋内で集中的にコントロールすべき場所を特定する。
方法:オイルトラップを壁と屋根の隙間、床と壁の隙間、窓等に設置し、屋内に侵入するサシチョウバエを採集し、比較検討した(写真7、8)。
7.オイルトラップ設置中 8.壁と屋根の隙間に設置したトラップ
7.オイルトラップ設置中 8.壁と屋根の隙間に設置したトラップ
※今回、採集したサシチョウバエは帰国後、解剖し形態学的、また分子生物学的に解析し属および種の同定を行う。これにより、バングラデシュにおける属および種の把握、ならびに種ごとの生態を検討する。
※すべての調査において、採集時の温度、湿度を記録しており、これらのデータと採集数を長期的に比較検討する。

2) 長期残効型蚊帳の評価検査

目的:ピレスロイド系殺虫剤含有長期残効型蚊帳、オリセット(住友化学)のサシチョウバエに対する殺虫効果が、昨年の予備実験ですでに得られている。したがって、バングラデシュでのフィールドより採集したサシチョウバエを用いて同様の試験を行い、オリセットの効果判定を行い、バングラデシュにおけるオリセットの有用性を評価する。
方法:WHO指定のCone testをオリセットとコントロール(ブランクネット)を用いて各4回行った。オリセット、またはコントロールネットを敷いた容器内に20~30匹のサシチョウバエを3分間入れ、その後、飼育容器に写し24時間後までの生存率を記録した(写真9、10)。
9.WHO指定テスト用容器 10.飼育容器に入れ観察
9.WHO指定テスト用容器 10.飼育容器に入れ観察
これらすべての調査結果をもとに、バングラデシュにおいてカラ・アザール流行地の住民が最も順応しやすく、かつcost effectiveなベクターコントロールの方法を導きだす一助になると考える。

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