農学生命科学研究科・応用免疫学研究室では、原虫(原生動物)が起こす感染症(原虫病)について免疫学的アプローチから様々な研究を行っています。研究対象としている主な原虫病はリーシュマニア症とマラリアです。遺伝子、分子、細胞の解析にとどまらず、感染動物、患者さらにこれら原虫病の伝播が起きている現場(フィールド)も視野に入れて研究を行うことを基本姿勢としており、国際的共同研究も多く行っています。本プロジェクトにおいては、以下3つのポイントを主に担当します。
- (1)PKDL発症機序の解明
- バングラデシュではPKDLがSAG(sodium antimony gluconate)によるVL治療後の患者の10~20%に発症するとされています。しかし、カラ・アザールの発症及び治療完了からPKDL発症への臨床経過を観察できたことは今までありません。本プロジェクトでは、患者試料を用い、免疫学的、病理学的検討を行うことによりPKDL発症機序を明らかにします。
- (2)ベクターの同定と分布調査とベクター駆除技術の開発
- リーシュマニア症は節足動物媒介性感染症であり、ベクター・コントロールの成否が、本症コントロールの明暗を分けるといっても過言ではありません。具体的には、分子生物学的手法の応用による、下記の項目を開始します。
- 1)バングラデシュにおける真のベクター種の探索
- 2)ベクターとなるサシチョウバエの生態を明らかにし、特に季節的消長、産卵場所の特定を行う
- 3)有用な殺虫剤の探索
- 4)殺虫剤適用法の探索
- (3)リザーバーの探索と対策法の確立
- リーシュマニア症は人獣共通感染症として知られていますが、これまでインド亜大陸ではヒトとサシチョウバエの間で伝播サイクルが回っており、他のほ乳類は介在しないと考えられています。そこで、PKDLの患者が浸淫地域におけるリザーバーとされ、PKDLの治療が行われています。我々は最新の知見から、「PKDLの患者が浸淫地域における唯一のリザーバーである」とのWHO の見解に大きな疑問をもっています。本研究ではバングラデシュにおいてリザーバーの探索と対策法の確立を目指します。